芸術的なクリームの山がそびえ立っている。いち、に、さん……全部で四つ。
「よく食べるねぇ」
冬の未蘭はあらゆるものから解放されて、かぎりなく自由だ。
いつもは我慢しているパフェだって、ものすごい勢いでお腹の中におさめてしまう。
カフェの生クリームをあるだけ残らず食べつくしてしまうのではと不安になるくらいに。
「それでね、新納くんといっしょに駅まで行ったんだけど……」
さっきから久しぶりのパフェに夢中で、わたしの話なんててんで聞いてはいない。未蘭はすっかり上の空で、パフェの頂上に乗った綿あめの雲くらい軽い相づちをくれるだけだ。
「聞いてる?」
「おう」
「それで――」
「ほお」
「電車が遅れてて――」
サッカーの次はパフェの早食い(あるいは大食い)選手権でも始めたんだろうか。見えない誰かと競うように、もくもくと咀嚼し続けている。その様子は必死でミルクを飲む腹ペコの子犬みたいで可愛いけれど、ここまで放置されるとつい意地悪を言いたくなってしまう。
「パフェとわたしどっちが好き?」
「パフェ食ってるお前」
「それずるくない?」
「ずるくねえよ。ほら、口開けろ」
「ダイエット中なんだけど」
「お前いつもそれじゃねえか。万年ダイエッターが」
「……」
一瞬の逡巡のあと、控えめに口を開ければ、生クリームのカタマリを強引に押しこまれた。入りきらなかった生クリームが口の周りに残忍な爪痕を残したのが、濡れた感触でわかった。せっかく塗ったリップグロスが台無しだ。
「ん〜〜! み〜ら〜ん〜!」
「はは。いい感じだぜ。今流行りの色だろ、それ」
「そんなわけないでしょ」
ナプキンで口元を拭きながら、未蘭がスプーンを動かすのを黙って眺める。
もうしばらく、口内にわずかに残った甘さに浸っていたかった。
ツイッターにて「パフェと私どっちが好き?」というお題をいただいて書いたSSでした(2019.01/25)
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