魔女。吸血鬼。悪魔。天使。かぼちゃの妖精さん。既製品のコスチュームを取りよせてみたはいいが、どれかひとつ選ぶとなると悩ましい。
「――ンだァ、その格好」
ちょうど天使のコスチュームに袖を通したところで、ミスタが目をこすりながら起きてきた。嵐のような寝癖に、大あくびを隠しもせず、お腹をぼりぼりかいちゃって。怠惰を擬人化したコスプレに違いない。
「ハロウィンパーティーのコスチュームを選んでいるの」
「ハロウィンだぁ? まだずいぶん先じゃあねえか」
「パーティーは来週よ。忘れてたの?」
「あ? ア〜……」
どうやらほんとうに忘れていたらしい。まったくこの男は。
「もう。あんたの"ボス"との付き合いでしょぉ〜?」
「んなもんテキトーにアルミホイルでも巻いてりゃあいいんだっつの!」
「アルミホイルを巻いて、いったいなんのコスプレになるわけぇ?」
「グイード・ミスタの包み焼き、シチリア風!」
「……いいわね。お葬式で料理を持ちよったとき、誰にも手を付けられずに最後まで残っていそうだわ」
ミスタのつまらない冗談を受け流し、衣装選びに戻った。
天使の羽を背負ってみる。意外なほど重くて、肩がこりそうだ。
「ケケケ……。オメー、もしかしてよォ〜、ロミジュリのつもりかァ〜?」
ミスタが「ケケケ」と笑うとき、それは決まって嘲笑だと私は知っている。
体をくるりと回転させ、背中につけた羽で顔を叩くと「いてっ」と、さほど痛くもなさそうな声があがった。
「いーわよぉ〜。私がジュリエットなら、アンタは宇宙飛行士のコスプレでもしてなさい」
「あぁそうだな……オイ待てッ! なんで俺がディカプリオ役じゃあねーんだッ!」
「ケケケ!」
ミスタの嘲笑を真似てみる。驚くほどそっくりだった。
とはいえ、宇宙飛行士のコスチュームを見つけるのは難しいかな。あぁそうだ、それこそアルミホイルで手作りでもしたらいい。ケケケ。
「オイオイオイオイ〜。俺たちは運命で結ばれた仲だろォ〜?」
「違うのかも。私の運命の相手は……ロミオはきっとほかにいるのね。あぁロミオ、早く私を見つけて! 薄汚れたこの世界から! ……ギャッ!」
名演技の最中だったのに。ミスタはすがりつくように私の脚に抱きついて、さらにはお尻に頬ずりまでしている。気持ち悪いッ!
「ドレスが汚れるからはなれてッ!」
「ん〜……オメーのロミオは今どこでなにをしてんだろーなぁ? ジュリエットがこんなことされてんのによォ〜早く駆けつけないとダメだろォ〜?」
「彼ならロスで新しい映画の撮影中よ」
「あ? ディカプリオ引きずりすぎだろ」
「ケケケ!」
ミスタを軽く蹴飛ばして、その胸に飛びこむ。
どちらからともなくキスをした。運命の相手にふさわしいキスだった。やはり私のロミオはこの人なのかも。コスチュームはボクサーパンツ一枚で、寝癖頭で、約束ごとも簡単に忘れてしまうけれど。
「ねえ、今から買い物に行きましょう。あなたのコスチュームをアルミ男からロミオにするの」
「あー? 宇宙飛行士じゃあなくていいのかァ?」
「いいのよっ!」
「……だったらよォ〜、デケー水槽も買わなくっちゃあなァ!」
「「ケケケ!」」
この笑い方、癖になる前にやめないと。
(2019.10.08)
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