日曜なのにめずらしく早起きしたこいつと、めずらしく寝坊した俺は、ほとんど同じ時刻に目を覚ました。
シーツのなかでまどろむこの女を放っておくと、一日中こんな調子でむにゃむにゃしやがるだろうから、あまり気乗りはしないがベッドから引きずりだしリストランテへ向った。例のマルゲリータがうまい店だ。
すでに朝食と呼べる時間は過ぎ、かといって昼食にはまだ早い。落ちついた店内には俺たち二人と、常連と思われる男が静かに新聞をめくっているだけだ。
「アバッキオと一緒にお昼食べるのって久々じゃない?」
「先週も食っただろ」
「でもあれは家だしぃ、一週間ってことは165時間も前だよ?」
「単純計算するなら168時間だろうが」
「そうやってすぐ意地悪言う」
「意地悪じゃあねぇ、事実だ」
「はいはい数学博士〜」
悪態をつきながらも、こいつの目玉は終始メニューの上を泳いでいる。
「まだ迷ってんのか」
「うん。だって全部美味しそうなんだもん」
「この店はマルゲリータがうめぇンだ」
「そうなの? でも今日はパスタって気分なんだよねぇ〜」
「両方食やァいいだろ」
「やだよ、太っちゃう」
「それ以上肉削いでどうすんだよ。今年のトレンドはガイコツなのか」
「……なんか今日のアバッキオすっごく意地悪じゃない〜?」
「いいからさっさと決めてくれ。さっきからおそろしい勢いで腹が鳴ってんだよ、オメーにも聞こえてんだろ」
「そう言われると焦って余計に決められないんですけどぉ」
「意地悪」を連呼する尖った唇を見つめながら、俺もまた、白ワインと赤ワインの狭間で揺れていた。こいつと行動を共にしていると目立ちにくいが、俺もなかなかに優柔不断な節があるのだ。
「ルッコラのサラダあるよ、アバッキオこれ食べるでしょ?」
「あぁ、そうだな」
「わたしはマルゲリータと、……ティラミス!」
「いきなりデザートに飛ぶのかよ」
「うん。だって美味しそうだよ、ほら、見て」
「パスタはいいのか?」
「我慢する」
注文する前は我慢するとか食べきれないとかあれこれ言うくせに、実際手をつけ始めると他人の分までぺろりと食っちまうのがこいつの常だ。
万が一ほんとうに食べきれなかった場合、その残骸は俺が処理してやろう。
そんなことを考えながら俺は、ちょうど厨房から出てきたところのカメリエーレを視線で呼んだ。
(2020.10/11 加筆修正し再掲)
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